レコードの種類はいくつある?

レコードの種類はいくつある?

当店で取り扱いしている中古レコード。
日々、膨大な数のレコードに目を通しますが、サイズや特徴など本当に多岐にわたるものです。

普段接している「レコード」というメディア(録音媒体)とは一体どういうものなのか?
物体としてどのようなデザインがなされているのか?
ふと初心に帰り、整理してみたいと思ったのでした。

さて、レコードの種類を大別すると以下の6種類に分けられます;

・SP
・LP
・7inch(シングルレコード、ドーナツ盤)
・10inch
・12inch
・ソノシート

今回のコラムでは順を追ってこれらの種類を確認していきます。
特に最近レコードを買い始めた/興味を持っているという初心者の方にお目通し頂けましたら幸いです。

※明確な言説・由来が見つからず、所説あるものも多分に含まれております。予めご了承くださいませ。

 

SP

現代において「レコード」という言葉を使うとき、それが指し示すのはまず「LP」。
次いで「7inch」「12inch」…という順番かと思います。
その流れで一番最後に来るのは「SP盤」(以下、SP)ではないでしょうか。

今はレコード界の末席に在って単語の響きを聞いたことさえない、
という方も少なくないことしょう。
しかし、レコード誕生の最初の季節において、レコードとはSPのことでした。

当店で買取・販売といった取り扱いもなく、
紹介する優先度的に最後に回そうかとも考えたのですが、
LPや10inchなどを説明する際に重要な役割を果たすので、
本コラムでは敢えて最初に取り上げたいと思います。

 

SPのサイズや特徴

一番最初に誕生したレコード、SP盤。
昔の映画に出てくる、蓄音機で音を出すあのレコード。

SPとはスタンダード・プレイ(standard play)の略語である、というのが通説です。
そう、あくまで通説。
というのも、海外では呼び方が違ったり、
日本国内でもstandard playという表記が公式として見つかっていないからです。

基本的なサイズは外周の直径が10インチ、つまり25cmほど。
もしくは12インチ=30cmほどの場合もあり、
ジャズの有名レーベルであるブルーノートはこちらの規格を採用していました。
とは言ってもレコード黎明期のSP。
まだ厳密な規格が存在した訳ではなく、盤によってばらつきもあるようです[注1]。

レコードの素材も今とは違って、カイガラムシ(虫です)の分泌物を精製して得られる、
シェラックと呼ばれる樹脂状の物質が用いられていました。
より正確には、酸化アルミニウムや硫酸バリウムなどの微粉末をシェラックで固めた混合物、です。

このシェラック、実はとっても脆いもの。
構成する粒子が粗く密度が疎なので、上の写真のように簡単に割れてしまいます。
落としたり物を上に置くなんてもってのほか。
再生する際の針でさえ恐る恐る落とすべきレベルで、扱いは非常に丁寧でなければなりませんでした。
(そこまで繊細に取り扱っていても、天然素材の有機物であるがゆえにカビが発生しやすいというリスクも…。)

盤面に溝を掘って針を滑らそうものなら、盤にある程度が厚みが必要になるわけです。
厚いということは製造に必要な素材の量が増えることにも繋がり、案の定ですが重いです。
しかも再生用の針は太い(当時は鉄製)=盤面の溝も太いので、
音質は悪く録音できる尺はせいぜい片面につき一曲
10インチなら3分ほどの再生時間だったようです。

”ちょっと待って。溝が太いにしても、その録音時間はいくら何でも短すぎでは?”
…と違和感を感じた方は鋭いです。
それに因んで、SPの回転数について触れましょう。

種類にかかわらず、レコードという録音媒体は
「盤が一分間に何周分回転するのか」
を基準にカッティングされます。
カッティングというのはレコードに溝を入れて製造される過程のことですね。
したがって再生する際の回転速度はあらかじめ決まっているわけです。

この回転速度のことを回転数と呼びます。
回転数は33回転と45回転の2パターンが一般的で、
市販のレコードプレイヤーも大抵はその前提で設計されています。

がしかし、SPに限っては例外で、その回転数は78回転
一分間に78周するということですから、33回転や45回転と比べると随分速いです。
(この速度の摩擦に耐えられるのはSPだけ。もしも現在のレコードを再生しようものなら”やられ”ます。)
録音時間がやけに短かったのはこういう理由だったのですね。

また、このことから海外ではSPという名称ではなく、
Shellacまたは78rpm disc(rpm:revolutions per minuteの略)、
すなわち78回転盤[注2]と呼ばれています。

ただ、SPのサイズに厳密な規格がなかったのと同様、1940年代に規格統一が実施されるまでは、
80回転のものもあれば76回転のものもあるといった具合で、
回転数も若干のバラつきがあったそうです。
(録音時間を長くするために回転数を落とす、といった意図もあった模様。)



[注1]SPのサイズにばらつきがあったということですが、一体どれくらいのレベルだったのか。
実物を見たわけではありませんが、オンラインで確認できた情報によると、
映画や放送に使用される直径16インチ(約40cm)の業務用から、
4~9インチサイズの市販されたものに、
おやつのクラッカーほどの2インチ(約5cm)大のボイスメモ用まで存在するとのこと。
また、北海道の新冠町(にいかっぷちょう)にある施設「レ・コード館」には
業務用を上回る20インチ大のSPが展示されているそうです。

[注2] 映画好きで78回転盤という単語にピンときた方へ。
そうです、「ゴーストワールド」(2001)でスティーヴ・ブシェミ演じる中年男性が蒐集していたレコードがブルースの78回転盤でした。
主人公の少女が雑に扱っているのを冷や冷やしながら見守っていたのは、
レア盤という以上にSPが割れやすいものだったからなのでしょう。

レコード初期の歴史

最初のレコードがSPということですが、ではその誕生はどういったものだったのでしょうか。
気になるので少しだけ歴史を紐解いてみます。

(レコードの種類を見ていくという本筋から一度脱線&長文が始まりますので、次のLPの項までスキップしたい方はこちらをクリックしてくださいね。)




はじめに、蓄音機を発明したのはエジソン、という豆知識は多くの方が知るところでしょう。
正確には、少なくとも1857年の時点で、とあるフランスの技師がフォノトグラフという録音機を特許申請しているように、
先駆者は複数名いたものの、実用化へと繋げたのがエジソンだったのでした。

エジソンの作り出した装置。
鍮でできたシリンダーに溝の切られた錫(スズ)の箔を巻きつけ、
雲母製の振動板を併せて録音および再生を行うもの。
1877年に制作されたこの蓄音機=フォノグラフこそ、レコードプレーヤーの最初の原型でした。

(この時、日本は明治時代。蓄音機発明のニュースは届いており、フォノグラフのことを”蘇言機”や”蘇音機”、”写話器械”のように四苦八苦の末の色々な訳がされていたようです。)

シリンダーがうんぬん、と説明されてもぴんと来ないかも知れませんが、
オルゴールを想像して頂ければわかりやすいかなと思います。
つまり、水平方向に倒された円筒=レコードがぐるぐる回転し、
針が円筒に掘られた溝に沿って振動する、という仕組みです。

この蓄音機を商品化すべく、有名なエジソン・フォノグラフ社の前身企業が設立。
ところが、いざ量産体制の段階へと入ると苦戦状態に陥りました。
数百台は生産されたものの実用性には事欠いており改善が望ましい。
なのに当のエジソンは白熱電球の研究へと関心が移っており、そのまま放置という…。

この膠着状態を打破すべく訪れたのが(電話の発明で有名なあの)ベル研究所のメンバー。
彼らは新たなアイデアを携えて事業提携を持ち掛けたのですが、エジソンは歯牙にもかけず。
ならばとベル側で自ら事業を起こすと、今度はそれに刺激を受けたエジソンが(ここにきて!?)改良に取り掛かって…。

という歴史があったようですが、ここでは割愛します。

この改良合戦の結果、エジソン・フォノグラフ社は鍮ではなく、
蝋/セルロイド製の円筒を採用するようになります。
そしてここがフォノグラフ社の限界であり、運命の分水嶺でもあったのです。

というのも、フォノグラフに端を発するこの方式、針が縦方向の振動を拾うものだったからです。
この点こそが後々のレコードとの決定的な違い。
素材こそ改良は加えられましたが、縦振動型シリンダー・レコードという
そもそもの設計思想から抜け出せなかったのが致命的でした。

決定打を放ったのがドイツ移民のアメリカ人、エミール・ベルリナーという人物。
最初のフォノグラフ発表以降、世界各地でも蓄音機と録音媒体の開発が進められていたのですが、
この人物の発想力が抜きんでていました。

彼はまず、針の拾う振動方向を横に出来ないかと思案。
シリンダーの向きを変えての実験の結果、その試みははたして成功します。

横振動でも音を拾える…。
ならば溝を刻むものはシリンダーでなくてもいいのではないか?
この着想こそが円筒状から円盤状へ、というコペルニクス的転回だったのでした。

亜鉛で出来た円盤に蜜蝋を塗り、その上に針で音を刻む。
そこに酸を注ぐと、刻まれた箇所は蜜蝋が削れているので亜鉛円盤に酸が到達。
腐食を起こして溝が完成する。
…そうです、銅版画などで利用されているエッチングの原理です。

こうして音の記録された亜鉛円盤から、凹凸の反転したネガを作成すれば、
そのネガを素材であるシェラックに押し当てることで何枚でも同じ亜鉛円盤の複製=レコードが製造できる。
今のプレス工場でも行われている方法論に辿り着いたのですね。

エジソンのシリンダー・レコード型のフォノグラフに対して、
ベルリナーの円盤レコード型のプレーヤーはグラモフォンと命名、特許申請されました。
1887年、フォノグラフの誕生から10年後のことです。

まもなくしてドイツのベルリンで両者の公開比較実験が行われたところ、
グラモフォンの方がレコードもプレーヤーもローコストで多くの数を生産可能であり、
音の再生自体も忠実性と安定性があると判定されたのでした。
(それでもフォノグラフと違ってグラモフォンではレコードの録音は行えません。
ゆえに一種のポータブル・レコーダーとしてフォノグラフはその後も重宝されたようです。)

かくして最初の円盤型レコードであるSPが誕生。
この後の数十年に渡って世界中に普及したSPは、

●片面録音から両面録音ができるようになった
●録音技術の面での革命(アコースティック録音→電気録音)
●原盤の素材にアセテートが導入されてクリアな音質が実現(ラッカーマスター方式)

といったように様々な改良が加えられ、レコード技術の基本が培われていったのですが…。
説明は次章へ持ち込みますが、LPの登場によって隆盛に一つの幕を閉じたのでした。

とはいえ、レコードの製造自体はなくとも、SPはもう聴くことのできないメディアではありません。
現在でも78回転対応のプレーヤーはオーディオテクニカをはじめとする企業から発売されています。
(もちろん、無理のない再生のために78回転専用針は欠かせません。)